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「「……そう、ですね」」
お兄さん、と言うよりかは、兄貴と呼んでしまいそうなのだが、それは恐らく柔乃さんも同じ考えだろう。勿論、言わないけど。
「あ、そうだ……。これ、引っ越し蕎麦を作ろうと思ったんですけど……」
持っていた紙袋のことを思い出す柔乃さん。幸い、麺は粉々になってはいないようだった。
しかし、一方で斑晶さんの顔色が曇っていた。顔が顔なだけに、その表情は喧嘩を売るヤクザのそれのようだった。
「ヒッ!」
短い悲鳴を上げた柔乃さんが脱兎の如く、猛スピードで斑晶さんから距離を取る。
「……ご、ごめんなさい。お嫌いでしたか? 蕎麦……」
すっかり萎縮してしまった様子の柔乃さん。それに気付いた斑晶さんは慌てて弁解する。
「ああっ! 違う違う! 別に怒ってる訳じゃないから!」
事情を知っている僕には、その光景がなかなか面白く映り込んだ……とか言ったら、流石に底意地が悪いだろうか。
「神鳥君も、笑ってないで助けてよ」
「何かデジャヴなんですよね」
僕も最初の内は今の柔乃さんと全く同じリアクションを取ったのを覚えている。
だからーーだろうか。
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