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「どうかしたんですか?」
僕は訊いた。
「……いや、妹も、私じゃなくて斑晶さんみたいな兄がいたら、と思いまして。この間は、神鳥君にあんなことを言っておいてあれですが、まぁ……劣等感ですかね」
そこまで臭わされると、かえって聞きたくなるな、妹さんのこと。
「知っての通り、私って極度の人見知りでして、一緒に暮らしてた頃は、妹がいつも近くにいてくれたんです」
と、恥ずかしそうに、半ば情けなそうに柔乃さんは俯く。僕も掛ける言葉が見つからずに、何も言えなかった。
途端に、いつもは気にしない自分のボキャブラリーの乏しさが無性に恨めしく思えた。
こんな時、格好良く慰める言葉があれば良いのだが、情けないことにそんな能力を僕は持ち合わせていなかったのだ。
この人の助手としてやっていけるのだろうかと、一抹の不安を感じた瞬間だった。
柔乃笑顔は決して探偵ではない。とは言え、頭が悪いのかと言うと、そんなこともなく、中間テストの近い僕の家庭教師をしてくれると言う頭脳と心の広さを発揮してくれた。
意外なことに、柔乃さんの教え方はとても分かりやすい。
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