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「うんうん。一生懸命書いた文字も、消すのは一瞬だよな」
「そうだな」
目の前に差し出されたノートには、びっしりと数式が書き込まれていた。2週間後に控えるテストのため、今しがたあいつが書いたものだ。
俺がそれを見たのを確認すると、あいつは躊躇なくそれを消していった。目の前で、黒く埋められていたノートが一瞬で白に戻っていく。時間的には一瞬でないのかもしれないが、それを三十分かけて書いたの目撃していた俺にとっては、一瞬だった。儚いほど、一瞬であった。
「宿題じゃなかったのか?」
「ああ。大変で困る」
気にした様子もなく、あいつはそう言った。だが、けしてそれはあいつが楽観的だからではない。はたまた天才だからでも、奇人だからでもない。
ただ、いまある事象に関係が無いから、気にしていないだけだ。
いまこの場において、宿題の書き直しなどほんの些細なことに過ぎない。少なくとも、あいつにとってはそうなのだろう。
今度はノートを千切って、紙飛行機なんか織り出したところをみて、それはより強く確信へと変わった。
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