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「ほら、すげーだろ」
「ノートで紙飛行機を作るなんて、器用だな」
「まあな。でも」
そう言うと、あいつは紙飛行機を優しく包み上げ、平行に動かし机の境界線を越えさせた。手をひっくり返せば、それはいとも簡単に下へと落ちていく。まるでスローモーションになったかのように見えて、落ちるのがやけに長く感じられた。
しかし、そう感じたのもつかの間。
床に着いたと思った瞬間、そう、ほんとに一瞬で、無惨にも紙飛行機は踏み潰された。
「紙飛行機を壊すのも、一瞬だな」
「……結局、何が言いたい?」
原形をとどめぬほど壊れてしまってそれを見て、あいつは怖いほど綺麗に笑っていた。俺がこれまでの言葉の真意を問いただすと、さらにそれは深いものへと変わった。愉しそうに、可笑しそうに、どこか遠くを見据えた目であいつは笑う。綺麗に、笑う。
「何事もつくりあげるのは時間がかかる。でも、壊すのは一瞬。そう一瞬だ。驚くほどにな。そして壊したものをもう一度元に戻すのは不可能に近い」
「まあ、そうだな」
「例えば信頼とか、絆、とか」
最後の言葉は、やけに大きく聞こえた気がした。いや、気のせいなんかでは無いのだろう。俺がそれを気にしていたということもあるが、あいつは確かに、意図的にそれをゆっくりと言った。まるでそれが本来言いたかったことだと言わんばかりに。
「……それが答えか?」
冷静に、ゆっくりと心の色を見られぬようにそう言えば、相手はまた深く笑った。
ここで断っておきたいのは、けして俺は動揺したわけではないということだ。少なくとも、俺の心は平静そのものだった。ただ、その言葉が、あいつの言葉が、どうしようもなく不快だったにすぎない。
「なんだ、思ったより動揺しないんだな」
「そりゃあな。予測してた事柄が起きようと、動揺なんてしねーよ」
「へぇ?」
「…………動揺しないからと言って、感情まで変わるわけじゃないけどな」
あいつの視線が、それのどこが予測してたいた者の態度だと言わんばかりに俺の身体に突き刺さるので、そう付け足しておいた。
確かに、俺の態度は動揺していないと言うにはあまりに滑稽だろう。わざと目をそらし、先程まで意識もしなかったペンを必死に動かすその様は、さながら上手い言い訳が見つからない子供のようだ。
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