第1章 産まれる産まれる

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その病院は、今夜は慌ただしかった。 急患で運ばれた女性の出産が始まっているからだ。 夜中の12時である。 育久産婦人科外科医院は、この地元では、珍しい大きな専門病院であり、医院長の育久 みのり女医は、若いが名医で有名だった。 この地域の住民から絶大な信頼があり、それにふさわしい腕と人格を備えている。 幾度となく、難しい状態の患者を扱ってきたが、今夜の出産は、いつもとは勝手が違っていた。 分娩室には、患者の若い女性が1人、付き添いには家族ではなく、その娘の友人が2人、来ている。 若い女性は、初診であり、妊娠初期にこの医院に来ていない。 育久 みのりは、分娩室横の準備室で、分娩のための身支度を整えながら、看護婦から現状の報告を受けている。 40がらみの、見るからに体力のありそうな看護婦は、クリップボードの書類を見ながら話す。 「患者は、町合 智美、19歳、範貫(はんかん)大学の学生です。」 みのりは、眉をしかめた。 「学生が妊娠? 最近の若い子は…」 看護婦は、言いにくそうに、次の言葉を吐き出した。 「それが、妊娠に本人が気づいたのが2日前なのです。」 みのりは、動きを止めた。 「何それ。」 「この2日で、腹が臨月になった、ということで…付き添いのサークルの友人達も同じことを言ってます。」 みのりは冷静だった。 「それは妊娠ではなくて、別の病気でしょうよ。」 看護婦は、額をハンカチで拭った。 「体の症状は出産間際の徴候を示してますが…あの、検査したところ、子宮に入っているのが、足なんです。」 「え?」 みのりは反応に困ったのか、口元だけが笑っている。 「成人の人間の、膝下からの足を妊娠しているとしか、言いようがない状態でして…」
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