第1章 産まれる産まれる

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みのりは、短く、ふっ、と息を吐いた。 あまりの突拍子もない話しに吹いたのか、ため息なのか、看護婦にはわからなかった。 みのりは身支度を済ませると、 「診た方が早い。」 と、言うと、分娩室に向かった。 分娩室には、2人の看護婦と、初老の男性の医師がいた。 分娩台にいるのは、まだあどけなさの残る少女だ。 苦しげに息を荒げて、横たわっている。 苦しいのも道理で、腹がイビツに突き出ている。 みのりは、男性の医師から渡されたエコーの結果を見ながら、患者に聞こえないように、男性の医師だけにささやいた。 「確かに、足がある。 へその緒もあるのね。 このへその緒、異様に太い。 なんだか判らないから、下手に切らないほうが良さそうね。」 急いでみのりは患者の容態を確認した。 「母体は苦しいようだけど、危険は薄い。 しかしまあ、2日でここまでに膨らんで、よく体がついてきてるものね。 このまま、普通分娩に移行、カーテン用意!」 患者から下半身が見えないように、腹のところにカーテンを立てて、目隠しをした。 患者の横に看護婦が1人立つ。 患者は、何事か訴えた。 「産まれる産まれる…」 看護婦は、患者を励ました。 「分娩が始まれば、楽になるから、頑張って!」 「私、そんな覚えがない…」 看護婦は、とにかく、今をしのぐことだけしか頭にない。 「先生は名医だから、大丈夫よ。」 患者は涙と鼻水を流しながら、虚ろな目を看護婦に向けた。 「何で覚えがないのに、妊娠してるの?」 看護婦は、言葉に詰まった。 だが、すぐに陣痛の、周期が早まってきた。話している余裕はなくなった。 妊娠2日で産まれるからなのか、陣痛の周期の縮まり方も、通常の何倍も早い。 みのりは、分娩に注力した。
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