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みのりは、短く、ふっ、と息を吐いた。
あまりの突拍子もない話しに吹いたのか、ため息なのか、看護婦にはわからなかった。
みのりは身支度を済ませると、
「診た方が早い。」
と、言うと、分娩室に向かった。
分娩室には、2人の看護婦と、初老の男性の医師がいた。
分娩台にいるのは、まだあどけなさの残る少女だ。
苦しげに息を荒げて、横たわっている。
苦しいのも道理で、腹がイビツに突き出ている。
みのりは、男性の医師から渡されたエコーの結果を見ながら、患者に聞こえないように、男性の医師だけにささやいた。
「確かに、足がある。
へその緒もあるのね。
このへその緒、異様に太い。
なんだか判らないから、下手に切らないほうが良さそうね。」
急いでみのりは患者の容態を確認した。
「母体は苦しいようだけど、危険は薄い。
しかしまあ、2日でここまでに膨らんで、よく体がついてきてるものね。
このまま、普通分娩に移行、カーテン用意!」
患者から下半身が見えないように、腹のところにカーテンを立てて、目隠しをした。
患者の横に看護婦が1人立つ。
患者は、何事か訴えた。
「産まれる産まれる…」
看護婦は、患者を励ました。
「分娩が始まれば、楽になるから、頑張って!」
「私、そんな覚えがない…」
看護婦は、とにかく、今をしのぐことだけしか頭にない。
「先生は名医だから、大丈夫よ。」
患者は涙と鼻水を流しながら、虚ろな目を看護婦に向けた。
「何で覚えがないのに、妊娠してるの?」
看護婦は、言葉に詰まった。
だが、すぐに陣痛の、周期が早まってきた。話している余裕はなくなった。
妊娠2日で産まれるからなのか、陣痛の周期の縮まり方も、通常の何倍も早い。
みのりは、分娩に注力した。
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