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それは、まさに足だった。
赤ん坊の頭の代わりに、つるんとしたまるい膝から、出てくる。
ずるり、と、意思があるかのように抜け出してきた。
その出方は、みのりに、芋虫を連想させた。
足が全て出る。
へその緒は、自然にぶつぶつと千切れ、落ちる。わずかに胎内からとび出ていた部分は、うねうねと胎内に戻ってしまった。
足は、それ単体で、生きているように、もぞもぞ動いていた。
分娩室の誰もが、異様な事態に言葉を発せない。
みのりはその足を看護婦に洗わせた。
美しい形をした足だった。
爪先の爪の形に至るまで、美しい。
みのりは、その、患者本人の足を見る。同様に美しい足をしていた。
そっくりと言ってもよい。
「フム…」
みのりは、足を保管するように指示をして、母体のチェックをする。
精神的なショック以外は、問題ない。
ようやくみのりの口元が少し緩んだ。
「原因の特定は後回し、へその緒の千切れた部分は回収、検査する。
何より母体は安静に養生させなさい。」
各員はてきぱきと動いた。
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