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しかし、よりによって『金物屋』がカード自販器を設置するとは思わなんだ。
キラキラと目を光らせる謎野に対し、晋也の目は死んだ魚のようになっていた。
(終わった。これで帰りは10分遅れる)
絶望する晋也に、謎野は早速財布から百円を取り出し、自販器の中に投入する。カード自販器は一回百円。何がでるかは分からない。
これで珍しいカードなんか出れば、更に面倒臭い事になる。カードの解説に始まり、謎野のどうでも良い感想を聞かされた挙げ句、最後にそのカードのキャラクターの台詞を、似てない物真似付きで永遠に聞かされる。
それだけは避けたい。いや、避けなければならないッッ!!
(ハズれろ、ハズれろ!全部ノーマルのブタにばっかりになれぇ~)
晋也は、謎野に呪いを掛けるが如く、空に向かって手を合わせ、最後に人差し指で謎野を指差した。
するとどうだろう。
「当たったーッッ!!」
謎野の声に晋也は耳を疑った。
「これを見てみろ!晋也ッッ!!激レアの『サーベルレッサーパンダ』だ。なかなか当たんねぇんだぜこれ。
いいか、サーベルレッサーパンダってのはなぁー…」
こうなると、一時間は話が止まらない。
知らないアニメの知らないキャラクターの、しかも似てない物真似付きで一時間も話される苦痛は、何物にも代え難いものがある。晋也は、謎野の言葉を右から左に受け流しながら、時間の大切さを肌に感じていた。
そしてもう一つ。晋也はあることに気が付いた。
(俺が人差し指を指した人って、みんな『自分にとって良いこと』が起きてるよな)
モンキーもそう。謎野もそう。
謎野から解放された後、晋也は半信半疑のまま帰宅した。
部屋に入り、そのままベッドに寝転んだ晋也は、ぼんやりと天井を見つめながら、今日一日あった不思議な出来事について考える。
(そう言えば、今まで気付いていなかっただけで、こういうことって前からあったかもな)
「晋也~。ご飯できたから、降りておいで!」
晋也は、母親の言葉にハッとなり、とりあえず考える事を中断した。
食卓は、いつもと同じで質素なものだ。
焼き魚に味噌汁。そしてご飯と小皿には漬け物が少々。
特に目立つ会話もなく、皆、黙々と用意された食材を口へと運び、テレビの音だけが虚しく部屋に響き渡る。
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