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翔央は毎日、あの林檎の樹の下で彼女を待っているのだった。
日頃、さほどの問題行動のある生徒ではないことや、成績に文句のつけようのないことなどでさして説教をくらうこともなく翔央は解放された。
そして、翌日もしっかり遅刻した。
林檎の実はもう大半が野鳥のついばむにまかせて無傷な実はほんの少しだった。下に何個も落ちてしまったいる。もう何年も見ていた光景だったがいつも翔央はこの林檎と店で売っている綺麗で立派な林檎との差がわからない。たくさんの人の手をかけ美しく大きく作られた林檎よりも、誰の手も借りずに決して見かけの良い実ではないが自力でつけたこの樹の林檎の方が美しく感じる。そして人に食べられるためではなく、小鳥たちの秋のご馳走になるこの実に尊敬さえ感じていた。それが翔央がこの樹を好きな理由でもあった。
一時間目を遅刻し、この樹の下に日参していたがそろそろ学校に行かないと二時間目も遅刻になってしまう。
(今日も来なかったか・・・)
ちょっとがっかりする。しかし、彼女はまた来る、とは言ったが当然のことながら約束したわけではない。ここに毎日、一日中いたところであえる可能性は限りなく無いに等しい。わかってはいたが、それでも翔央はわずかな可能性に賭けてみたかった。とは言え、二時間目も遅刻はさすがにまずい。家に連絡されてはいかに仕事が忙しいのと、愛情のある放任主義の医者の両親といえどもなにかしら言ってくるに違いない。
名残惜しそうに翔央は林檎の樹を背にした。
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