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茶色に近いくらいに明るい、肩を隠すくらいのゆるいカールのかかった髪が少しだけ吹く風に揺れていた。ふんわりとした、しかしボディラインのはっきりわかるふくらはぎの真ん中くらいまでの丈の真っ白いワンピースを着ているその後ろ姿は非の打ち所のない美形だった。背が高く、おそらくは185センチある彼と並んでも見劣りしない上背と、まるでヴァイオリンのようなくびれを支える長い脚、その後ろ姿にあまりにも似合う真っ赤なピンヒールの靴には踵のところに大きなリボンの飾りが付いていた。
髪とワンピースの裾が心地いい風に揺れるさまはまるでフランス映画のひとコマのようだった。
(まぁ・・・バックシャンかも、な)
少しだけ鼓動の早くなっている自分に言い聞かせるように彼はシニカルにわらった。
今まで何度後ろ姿に裏切られたことか・・・と。しかし、仮に彼女が彼の思うようなバックシャンだったならば振り返らないでくれと頼みたくなるような、そんな後ろ姿だった。
しかし、後ろに気配を感じたのか、彼の内なる願いも虚しく彼女はゆっくりと振り返った。その時、彼は彼女がバックシャンかもしれないと思った自分を心の底から詫びた。
振り返った彼女は後ろ姿同様、むしろそれ以上に美しい。10代の彼が見とれてしまうのは当然な容姿だった。
「ねぇ、これ食べられるの?」
よくとおる若干低めの、立ち姿同様に美しい声だった。
「さぁ・・・」
あきらかにどぎまぎと彼は答え、彼女の前に佇む林檎の樹の前に進んだ。
「たぶん・・・誰も手入れなんかしていないから・・・食べない方がいいと・・・思います・・・」
都会の、住宅街の真ん中の空き地にたった一本だけ植えられている林檎の樹は毎年律儀にたくさんの実をつける。しかし、それを誰かが食べている気配はなくいつもついばんでいるのは小鳥たちだけだった。
「そうなんだ・・・。もったいないね、こんなに立派に実をつけているのに」
哀れみとか悲壮感とかではなく爽やかに彼女は言った。
「ぅ・・・ん・・・」
彼は言葉にならない返事を返す。そんな彼を見て彼女はわらった。
「さぼり?」
「え?な・・・なんで?」
つっかえながらしどろもどろになる彼をまた彼女は笑う。
「一つ、君は制服を着ている」
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