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第二章 現実
そんなことがあった翌日、一週間で一番やる気のなくなる水曜日の6時間目がやっと終わり、返された中間考査の点数も安堵できるものでホッとしていた下校前のホームルームの時間だった。
「じゃあ、プリント配りまーす!」
まだ若い、新卒の女担任は元気を持て余し気味の学生たちの放課後前の元気についていけない。枯らしそうなほど声を張り上げ、教卓の上に今から配るプリントを掲げ最前列の机に一束づつ置いていく。教卓に戻るとあきらかに疲れきってため息をついていた。
プリントは賑やかなおしゃべりのなか順調に後ろに回されクラスで一番背の高い翔央の前まで届いていた。
「たりーな・・・演劇教室だってよ」
翔央の前の席の拓海が本当にだるそうに言う。
「なになに・・・“双頭の鷲”・・・ジャン・コクトー?・・・わけわかんねぇ!」
プリントを渡しながら自分の分のプリントを読んでいる。
「演劇教室よりか演芸教室とかさー、ルミネ・ザ・よしもととかのがいいんだけどなー」
拓海の言葉に翔央も相槌をうつ。
「まったくだ。でも、授業が無い、ってことは歓迎すべきだよ」
翔央はまわってきたプリントをろくに見もせず二つにたたんだ。
「そりゃそうだな。ありがたいこった」
「だろ?演劇教室ばんざいだぜ。寝てりゃいいんだから」
笑いながら翔央はカバンの中にプリントを押し込んだ。ちらっと見ると二つに折れた見える側に
王妃 紗羅瑠璃香
と書かれている。
(うわ・・・テストの時名前書くだけで一時間くらいかかりそう・・・)
密かにそんなことを思った翔央はすぐにそのプリントのことを忘れ、拓海と放課後の予定に花を咲かせた。
いかにもパブリックな名前のついたビルに入っている劇場はパブリックなせいか区内の学校の演劇教室に使われることが多い。大抵は特別に何かを公演するわけではなく、一般の興業に貸切日を作ることが常なので今日は客席は学生ばかりだった。
「翔央、いいなぁ・・・こんないい席で!」
幼稚園の時からの幼馴染の麻衣が羨ましそうに翔央の前に立つ。
「悪いな。クラスで一番背が高いんだからもっと後ろでいいんだけど・・・」
「まぁね、あんたの名前は石田だもんね。50音順だとちょうどセンターの最前列・・・」
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