第二章 現実

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「麻衣はクラスで一番小さいのに蓮蓬なんて苗字だから何列もうしろだもんな。 できるもんなら変わってやりたいんだが・・・」  収拾がつかなくなることを恐れる学校側から席の交代は固く禁止されていた。  (蓮蓬・・・も名前書くの大変だな・・・)  プリントを見たときの事を思い出した翔央はくすっとわらった。  「なによ!?」  幼馴染の軽口で麻衣は翔央を睨みつける。  「いや・・・今日の演劇の主役?紗羅・・・なんとか・・・」  「ああ、紗羅瑠璃香?」  「そうそう。なんか名前書くだけでテストの時間終わっちゃいそうだな~と思ってたんだけどさ、考えてみたらお前も似たようなもんだな、って」  「そりゃ石田なんて簡単な名前とは一緒にはいかないわよね」  麻衣もわらう。  「あ~でも、瑠璃香さまの舞台が演劇教室なんてもう感謝だわ!」  「瑠璃香さま?あ、そういえば・・・」  麻衣は母親、姉と共に女性ばかりの劇団の熱狂的なファンだった。  「じゃ、この紗羅なんとかって・・・」  「しゃらるりか!」  麻衣が人差し指を振りながら得意げに言った。  「12年前に劇団をやめた男役のトップスターよ。そりゃーもう綺麗だったんだから!」  (女なのに男役?)  「お母さんとお姉ちゃんとすっごく観たよ。私はまだ小学生だったけどね。でも、すっごく鮮明に覚えてる!今日も二人にもう、羨ましがられちゃって!あんたのあかげで視界はあまり良くないけどそれでも3列目だからね。十分いい席だもん。もう、チョー自慢できる!」  (女が女にここまで惚れ込むとは・・・わけわからん・・・)  漫画ならばハートの目で嬉々としている麻衣に拓海が声をかける。  「お!今日も夫婦で仲良しだな!」  親同士も仲がよく本当に仲良しの幼馴染の翔央と麻衣は拓海たち悪友の格好のからかいネタだった。  「もう!橋田クンのバカ!」  麻衣が拓海の肩を叩く。翔央は拓海が密かに麻衣のことを好きなのを知っている。  (そんなからかってないで告ればいいのに)  見かけによらず奥手な友人を翔央は見守るように笑った。  まだ明るい客席に1ベルが鳴った。  「はーい!もう席についてください!始まります
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