第六章:悲劇のみが終わりを告げる

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実の親にさえ素の自分を認めてもらえず抑圧され、偽の人生を強要されることの絶望感。 そして、これは無意識か本能的なものだったのかもしれないが、物心がつくにつれ弟の性格に違和感や嫌悪感を抱くようになった姉。 この二人からの拒絶を滲ませる態度が海斗の心に最終的なとどめをさしてしまったのが、一ヶ月くらい前だったか。 他人に馴染めず家族からまで軽蔑され続けた海斗は、自殺をしようと自暴自棄に陥ってしまった。 部屋へ訪れた僕に、己の身体を抱きしめるようにしながらもう死にたいと涙をこぼす海斗の表情は、ゾッとするほどに絶望を滲み出していた。 本当に追い詰められた人間というのはここまで壊れたような顔を見せるものなのかと、そのときの僕は表現できない感覚に打ちのめされ暫くの間瞬きも忘れ幼馴染の泣き顔を凝視していた。 「冬美にだけは感謝してる。こんな自分のことをあるがままに受け入れてくれたし、同じ悩みを共有していることも嬉しかった。……正直、少し冬美のことが好きだったよ。
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