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【2】
六月十日。木曜日。午後一時三十分。
平日の喫茶店は、それほど込んでいない。
そう高を括っていたのだが、どうやら自分の予想は甘かったらしい。
時間帯も悪かったのかもしれない。
店内は雑談に花を咲かす主婦の姿が目立ち、旦那の愚痴らしき会話や笑い声が止まることなく耳に入ってくる。
中には仕事中と思われる若いスーツ姿の男が一人パソコンを叩いていたりする姿も紛れているが、こんな場所で事務作業などをして果たしてはかどるものなのか、わたしには甚だ疑問に感じるだけでしかなかった。
(……まぁ、人それぞれか)
半分ほどに減ったコーヒーへ口をつけ、胸中で呟く。
海咲 楓(うみざき かえで)、二十七歳。
つい三日ほど前に誕生日を迎え、また一年死期が近づいたなとため息を飲み殺したばかりのわたしはチラリと店内に飾られた壁時計に目を向けた。
午後一時三十二分。
待ち合わせの時刻を、二分過ぎた。
それを確かめてから、今度は入口に顔を向ける。
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