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僕は、東京に住む18歳。
大学進学を前に親父が倒れて、母さんが大変らしい。
僕の実家は自営業をしていて、親父が倒れると主な収入源が絶たれるのである。
母親はもともと体が弱く、親父の手伝いをするだけで精一杯で、正直、親父の代わりに働くのは不可能だった。
俺は、実家のある山形に帰ることにした。
大学は、また来年あるし、結局は俺が実家を継ぐんだろうから、大学に行かなくても最悪いいと思ったんだ。
春の日差しに包まれながら、僕は帰った。
新幹線の中、通路をはさんだ隣の席におじいさんが座っていた。
ヨボヨボで、とても一人じゃ歩けなそうだった。
周りには介抱してくれるような人などいない。
徘徊かな、僕はそう思った。
おじさんは、僕にこう言った。
ー君は、今のままで、満足かい?ー
満足…?
親父が倒れ、大学がパーになった。
確かに不満だ。
でも、東京には思い残すことなどなかった。
もともと社交的でない俺は、高校ではそんなに友達も作っておらず、最近になって話したのなんて、ピザの配達員さんぐらいか。
何が不満か…?
ー若者よ、もっと欲しがれ。もっと欲を出すのだー
多分、そこらの高卒よりは頭は良かったし、大学に行くのも困らなかった。
多分このまま就職しても問題なかったと思う。
それに、俺には実家を継ぐという選択肢まで与えられていて、欲しがるものなんてなかった。
ー欲しいものを一つだけ。君の欲を叶える魔法があるよー
掠れた声で話しかけるおじいさん。
僕は、なぜかこの時、もう一人の自分がいたら、なんて思ったんだ。
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