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できるだけ明るく、軽口を装って話したけど、どうやら無駄な足掻きだったようで。
左側から漂ってくる、そこはかとない色気。
そして、またもや訪れた、微妙な沈黙。
新たな話題を提供することは諦め、左前方に見えるプロジェクションマッピングに集中しようと努めた。
だけど、亮平が目の端に入り込むだけでなんだか落ち着かず、結局、左側を極力見ないようにして、目線をウロウロと彷徨わせることになってしまった。
週末のゴールデンタイム。
目の前の大通りには、多くの車が行き交っている。
その流れをぼんやり見ながら、なんとなく目線を右方向に移していくと、プロジェクションマッピングの明かりに照らされ、普段なら見えないはずの大通りの向こう側の歩道に、人が立っていることに気付いた。
繁華街から少し離れたオフィス街には、この時間帯に歩行者はほとんどいない。
動きもせず、たった一人で何してるんだろう。
訝しく思い、その人物を注視した瞬間―――――
ドクンッ
心臓が、大きく震えた。
ウソ・・・・・・、まさか。
周りのすべてのモノが止まった気がした。
音も。
風景も。
そして、私自身も。
頭の中は真っ白で。
何も考えられなくて。
どうして。
いつから――――
感情の読めない表情で、こちらを射抜くように見つめる彼の目。
その目に、まるで縫いとめられたように、私は、目を逸らすことができなかった。
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