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「ねぇ、麻衣子」
「ん?」
「私ね。亮平とこのまま進んでもいいかな、と思ってたんだ。つい最近までは」
「……じゃ、今は?」
「停滞……いや、“揺り戻し”状態かな」
「どういうこと?」
我ながら言い得て妙だな。
でも、事情を知らない麻衣子は怪訝そうな顔をしていたのが、なんだか可笑しかった。
「……実は、一週間前の会社の花見の時、あっちゃんと会ったの」
「えっ!?」
「あー、『会った』は語弊があるか。正確には、道路の向こうから私を見てたのに気づいただけ。すぐ去って行ったけど」
「………」
「それからね、なんでこっち見てたんだろうとか、気になって仕方なくて。冷めて音信不通になったんなら、きっとガン無視するはずなのに、なんでだろうって」
「………」
「勇気出して、もう一度、電話かけてみようかとも思った。だけど、私の単なる思い過ごしかもって思ったら、怖くて発信ボタン押せなくて。向こうから何も言ってこないってことは、やっぱりその程度なんだろうなって。そう思う一方で、だったらなんで、立ち止まって私をずっと見てたんだろうって。その無限ループ」
私の乾いた笑いだけがそこに落ちた。
「だから、自覚した。やっぱり私、あっちゃんのこと、吹っ切れてないんだって」
「まだ好きってこと?」
「どうなんだろうね。単に、あんな切られ方だったから、執着してるだけなのかもしれないけど」
麻衣子に打ち明けたら、幾分かスッキリした。
一方で、麻衣子は神妙な顔つきをしている。
「……ねぇ、あれから―――音信不通になってから、まだ一回も連絡ないんだよね?」
「うん。だから猶更、ワケが分かんなくて」
麻衣子はジッと何かを考え込んでいる様子だった。
「……あのね。実は、理央に言おうかどうしようか迷ってたことがあるんだけど……」
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