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「財布、びっくりした?」
「…うん」
困惑気味の私の返事を訊いて、財布の件によほど動揺したと思ったのか、彼はクスクスと笑った。
……そこじゃないんですけど。
まったく、こっちの気も知らないで……
心の中ではブーたれつつも、結局のところ、久しぶりに彼と話せたことの嬉しさのほうが断然勝っていて、
「ホントびっくりした。心臓止まるかと思ったんだから」
と、わざとふざけて言うと、
「ハハッ」
と、電話の向こうで、彼がおそらく破顔しているであろう笑い声が聞こえた。
それからしばらくあっちゃんとたわいもない話をしているうちに、さっきまで心の中に垂れこめていた黒雲は、いつの間にかスッキリと消え去っていた。
それと共に、晴れやかな気持ちが溢れだし、自然と笑顔がこぼれていた。
たったこれだけのことで、私の心を晴天にしてくれるあっちゃんて…
自分にとって彼の存在がどれだけのものになりつつあるかを痛感させられた出来事だった。
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