10人が本棚に入れています
本棚に追加
去年の夏の事です。
私は彼氏の敦也(あつや)とその友人2人で、『女郎瀧(じょろうだき)』と呼ばれる全国でも有数の心霊スポットへ行くことになりました。
女郎瀧は山梨県某所、私達の住む地域からは車で2時間程の所にあります。私達は敦也の友人の一人、竜也(たつや)君が運転するワンボックスカーで女郎瀧へと向かうことになりました。
わざわざ足を運ぶなら雰囲気が出た方が良いということで、出発した時には既に午前0時を回っていました。
私は専ら心霊といった類のものが苦手で、敦也から誘われた時も頑なに拒みました。ですが私をどうしても怖がらせたいらしく、執拗なまでに説得されたため、渋々付いて行くことになりました。
敦也のもう一人の友人、浩志(ひろし)君は、このメンバーの中でも一番の心霊好きで、これから行く女郎瀧についても色々調べてきているようでした。
浩志君いわく、女郎瀧をいう名称は、戦国時代に起きたある悲劇に由来するとのことです。
当時この地域を治めていた戦国大名『武部 頼幹(たけべ よりもと)』の隠し金山がこの地域に存在し、天正3年の中篠の戦いにおいて、織川・徳田連合軍に大敗した武部氏は、その後の動乱の後に自害。この死によって織川・徳田連合軍の侵攻が始まり、武部氏の隠し金山の秘密が漏れることを危惧した金山奉行 葉田の主導で、鉱山労働者の相手をするため遊廓にいた44人の女郎と金山に従事した配下の武士をこの瀧から落とし皆殺しにしたそうです。亡くなった女郎の数が44人だったことから、別名『四十四人の瀧(しじゅうしにんのたき)』とも呼ばれるそうです。
それだけのことがあれば間違いなく日本有数の心霊スポットになっても不思議ではありません。そんな所に今から行こうというのですから、気がおかしくなりそうでした。
浩志君の話が終わり、会話がなくなった車内は沈黙に包まれました。私にとって静まり返った車内はとても怖く、誰も乗っていない三列目シートが不気味に感じました。
それでも私達は街灯など一切無く真っ暗な峠道を、車のヘッドライトが照らし出す道だけを頼りに女郎瀧へと向かいました。
最初のコメントを投稿しよう!