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音は私達の間近で止まりました。次の瞬間、私の足首をとても冷たい何かが力強く掴みました。反射的に懐中電灯を向けた後、私は叫びました。
「きゃああぁぁぁ!!」
私の足を掴んでいたのは青白い手でした。その手の主は、着物のようなものに身を包み、髪を乱して地面に這いつくばっている女でした。顔面は手よりも更に青白く、額から右目付近にかけては何かに強く打ちつけたけいか、陥没し眼球が飛び出していました。
私は足を蹴り上げ手を振り払った後、無我夢中で走りました。道が続く限り奥へ奥へと。
しばらく走ると木々が途切れているらしく、月明かりが差し込んでいるような場所が見えました。私はとにかくそこを目指し走り続けました。
辿り着くと、そこはせり出した崖になっていました。大きな水の落ちる音が聞こえ、右前方を見ると瀧が目に入りました。
これが『女郎瀧』だ。そう直感しました。
落差ははっきりわからないものの20メートルは超えているように思えます。落下した先は、滝により浸食されてできた深い淵なっていました。
ここまで来てようやく、私は一人ぼっちになっていることに気が付きました。先程の恐怖が蘇り、徐々に大きくなっていくのを感じました。
そして、
ズズズズッ ズズズズッ
再びあの音が聞こえ始めました。
ズズズズッ ズズズズッ
どこから聞こえるのかはわかりません。
ズズズズッ ズズズズッ
ただ先程とは少し違います。
ズズズズッ ズズズズッ ズズズズッ
ズズズズッ ズズズズッ
何か所からも聞こえるのです。
ズズズズッ ズズズズッ ズズズズッ
ズズズズッ ズズズズッ
ズズズズッ ズズズズッ ズズズズッ
私は必死にライトを当てながら周囲を見回しました。すると微かですが、木々の向こう側や私が元来た道の方に何人もの人影が見えました。目を凝らすと先程の女のような容姿をしています。足を引きずっている者や這っている者など、何人もが私の方に迫って来ているのがわかりました。間違いなく昔ここで殺害された女郎達だと確信しました。
「いやっ、いやっ!」
私は崖の縁ギリギリまで行きましたが、もう逃げ道はありません。すると、
ズズズズッ ズズズズッ
崖の下からも音が聞こえ始めました。
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