第4章

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 レコーディングが始まる頃から、MOONのスケジュールは本人達にはあまり喜ばしくないものになっていった。  というのは、メジャーなみと言われるギルティーの宣伝戦略のために、アルバムジャケットやポスター以外の写真撮影やロック雑誌の取材が、レコーディングの期間にも予定されたからである。  それ自体は嬉しかったし、自分達のために何人もの人が動いてくれる初めての作業は何もかもが珍しかった。  プロのスタイリストやヘアメークの技術で、自分が期待以上のビジュアルになっていくのも嬉しかった。  しかしそれは、慣れないレコーディングに対する集中をしばしば中断させるものになった。  ビジュアルも重視するというバンドの方針のために音に集中できない…そんなMOONの悩みはこの時もうすでに始まっていたのである。  ZENNのお墨付きではあるが、インディーズの段階ではバンドのセルフ・プロデュースなので、実際に彼の意見が入るわけではない。 ということは、多忙な彼がレコーディングのスタジオに来るはずもなく、マリアはひそかにがっかりしていた。  曲のアレンジで他のメンバーと対立する時、あるいはギターのフレーズに煮詰まる時、こんな時、ZENNならどうするだろう、と考えている自分がいる。 そのことがむしょうに腹立たしくもあり、また、どうにもできないのも事実なのだった。
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