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小人に手招きされて退室した。
部屋の外には、薄暗い廊下をうめつくすように、大勢の小人が待っていた。
どれもこれも、最初の小人と同じ大きさ、同じような顔をして、同じような緑色の服をきている。
「お願いします。先日より、われらの城に巨人が侵入して、暴れております。われらも力のかぎり戦っているのですが、なにぶん、体の大きなやつらに、手も足も出ません。仲間は次々、殺されています。あの悪しきものどもをけちらしてください」
ディアディンの腰ほどもない小人たちの言う巨人だから、せいぜい人間と同じていどだろうと、たかをくくっていた。
が、これが大間違い。
小人につれられて、いましも攻防をくりひろげている食料庫前へ行くと、小人たちをふみつぶしながら進んでくるのは、血のように赤い服をきた巨人だった。
たしかに、ディアディンから見ても巨人だ。 見るからに、まがまがしい。
(まあ、文句を言う筋合いじゃないか。巨人だって言ってたんだからな)
「やつらは悪鬼です。悪魔です。われらが、たくわえた食料を根こそぎ奪っていくのです。それどころか、われらの赤子まで、むさぼるのです。どうか助けてください」
巨人は三人いた。
剣や弓といった人間の武器は持たず、ロープをふりまわして、小人たちをなぎはらっていた。
小人はみるみる、ふきとばされていく。
「真正面からつっこんでいくのは、さすがに、おれでも上策ではないか。聞くが、やつらはここへ食料を荒らしに来るんだな?」
「はい。あの扉のなかが、食糧庫です」
「わかった。おまえたちはジャマだ。いったん、ここはヤツらにあけわたせ」
小人たちは憤慨して、口々に反対した。
「そんなことしたら、食糧庫はカラッポになります。われらにどうやって冬をこせとおっしゃるんです」
「今日、一族が全滅するのと、ここはしのいで、冬までに食料をたくわえるのでは、どっちがいい」
強く言うと、小人たちは口をとがらせて、不平不満を言いながら承知した。
「砦を代表する勇猛かかんな英雄だって聞いたのに、ウソっぱちだ」
「小さいわれらが命がけで戦ってるのに。腰ぬけだ。腰ぬけ」
バカか。おまえらは。これは作戦だ——
と、どなりつけたかったが、それでは巨人にも、こっちの考えが筒抜けになってしまう。
ディアディンは、ぐっと、こらえた。
ぶちぶち言う小人たちを退却させると、ディアディンも廊下のかどまでしりぞいた。
巨人のおつむも小人なみらしく、疑いもせず食糧庫へ飛びこんでいった。
「おまえたちは、ここにいろ。足手まといだからな」
ぽかんとしている小人たちを残して、ディアディンは一人、あけっぱなしの食糧庫の前に立った。
扉のかげから、のぞいてみると、巨人どもは、いじきたなく食料を食いちらしている。
さっきからのちょっとの時間で、もう食糧庫のなかは半分近く、食いあらされていた。小人たちが心配するのも、いたしかたあるまい。
だが、おかげで、やつらは三人とも食べ物に夢中だ。縄のような武器もほうりだしている。
ディアディンが見ているのにも気づいていない。
ディアディンは剣をぬき、手近な一人に切りつけた。
ぎゃっと声をあげて、巨人は倒れた。
あとの二人がふりかえったときには、そのうちの一方に、ディアディンは切りかかっていた。
二体めも撃沈。
しかし、最後の一人は少しだけ反応が早かった。
ディアディンの剣は巨人の片足を傷つけただけで、巨人は足をひきずりながら逃げだしていった。
「待てッ!」
外に出て追いかけるものの、廊下が妙にグラグラする。床が綿でできているみたいに、ふにゃふにゃする。
そのうち、ディアディンは気が遠くなった。
気がつくと、ディアディンは自分の部屋のベッドで、朝をむかえていた。
早朝だ。
部下たちはまだ眠っている。
「おかしな夢だった……」
まだ早いが、目が冴えてしまって、二度寝はできそうにない。
ディアディンは顔を洗いに、一階まで下りていった。 今度はちゃんと要所に見張りもいて、いつもどおりの砦の風景だ。
生々しい夢だったな——と思いつつ、冷たい井戸の水で顔を洗う。やっと現実感が戻ってきた。
いつまでも、つまらないことに頭を悩ませていては、本業でミスをする。
ディアディンの本業とは魔物退治だから、失敗するということは死ぬことだ。
むしろ、それが望みのはずなのに、なぜ、自分はけんめいに生きようとするのだろう。
死にたい、死んでもいいと言いながら、やはり心の底では、自分は本当は生きたいのではないだろうか……。
答えの出ない疑念に、ディアディンが沈んでいたときだ。
井戸端を歩いていく、薄緑色のアリに気づいた。
アリはまるで、ディアディンの気を引くように、前足二本で、チョイチョイと招くような仕草をする。
(アリ——緑色の……)
誘われていくと、アリは林のなかへ入っていった。一本の木の根元へつれていく。
見ると、木の根元に大きなアリの巣がある。
その入口で、薄緑色の小さなアリが、自分たちの百倍も大きな、真っ赤な毒グモを相手に、必死に巣を守って抗戦していた。
毒グモは後ろ足が一本、動かない。
「なるほどね」
ディアディンは毒グモの足をつまんで持ちあげると、石の上に置いて、ふみつぶした。
アリたちがいっせいに、ぺこりと、おじぎした。
了
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