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──週末、夜の9時過ぎ。
「ただいまーー」
一週間分の疲れと空腹で、履いていたヒールを脱ぎ捨てて、
まずは化粧を落そうと洗面所へと重い足を引きづった。
今年の誕生日で、葉山 志帆は30歳を迎える。
未だに一人身の私は、ある意味人生の節目でもあるアラサーの台に登るという事もあって、1年前から実家の近くではあるけれど、一人暮らしを始めていた。
といっても場所は、実家から自転車で20分程度の距離。果たして自立といえるかどうかは、微妙だけれど。
それに、今日の様に数カ月に一度は実家に夕食を食べに帰るという、この甘えた根性。
いい加減、自分に厳しく行かなければと、分かっているものの中々…上手くいかない。
「あ、そうだったわ、志帆。
あんたに、こんなはがき来てたわよ?」
「えー、何よ?また何かの勧誘?それかカード会社の請求書とか!?
いやだな、今月…色々ピンチなんだけど」
コンタクトを外し、化粧を落してサッパリした私は黒縁眼鏡を装着してリビングの椅子に腰をおろした。
長い髪を一つにくくりながらキッチンで御味噌汁を温めてくれている母へと視線を送る。
「…あんたねえ、
なんでそんな寂しい思考しか出てこないのかしらねえ」
小首をかしげながら私の目の前に湯気の立ったお味噌汁をコトンと置くのと同時に、
エプロンのポケットから、はがきを一枚取り出してテーブルの手元に置いた。
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