【本編】

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** ** 週始め月曜日、早朝。 今日も街では、人が忙しなくひたすら前を見て懸命に歩いている。 毎朝、毎朝… 私もその世間の波に取り残されることのないように、 同じ時間、同じ車両に乗って、片道1時間先の駅までひたすら揺られ続けて、出勤する。 この先、幸せなんて待ち受けているだなんて思ってはいないけれど。 でもね、時々思う。 私がこの足を、このサイクルを壊したら、誰か困る人なんて居るんだろうかって。 この退屈な日々を、誰か塗り替えてくれないかなって。 今日みたいな、今にも降り出しそうな空の…月曜日の朝は、特にそう思うんだ。 一人でいるのは、やっぱり……寂しい。 感傷に浸りながら、横断歩道でボンヤリと曇空を見上げていたら後ろからオジサンに体当たりされた。 拍子に、バランスを崩した私はよろけて膝を打ってしまった。 …(っいったあーー!!) 思いっきりしかめっ面で過ぎて行くオジサンの背中に睨みをきかして 転んだ膝をさすりながら立ち上がり、なんとか反対側の横断歩道まで渡りきる。 「……」 馬鹿な事、考えていたから、罰があたったのかな。。。 駅近くのロータリーには、十字路に横断歩道があって、何度か信号を渡らなくてはいけないのが面倒だ。 ふと、赤信号で立ち止まりながら、足早に駅へと向かうスーツ姿の男女の後姿に深いため息をこぼす。 そんなに急いで、何の為に彼らは毎日頑張っているのだろう。 疲れて、……精神的にもくたくたになったその先に、何を求めているのだろう。 ……そんな色の無い毎日だったんだ。 今の、今までは。 ーーー本当に、それは偶然で。 いつもと同じ時間の電車に乗るはずだったのに、 この日はたまたま……乗れなかった。 そんな小さなことから、……全部、始まったんだ。 一瞬、…… 本当に、一瞬。 貴方が、私の視界にフッと、姿を見せた瞬間、 パッと、色がついたーーー 駅前の横断歩道の信号が変わる直前、長身の男性が私の目の前に飛び出てきた。 ダークグレーのスーツのジャケットを片手に持ち、 アイロンをきかせたであろう皺ひとつないシャツ越しに鍛え上げられた細身の後ろ姿。 …いかにも出来る様の、その目の前に並ぶビジネスマン。 あの背中に抱きついたら、きっと温かいんだろうな…… 後ろ姿、好きな背中の形だな。
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