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そう啖呵を切ると、マサオくんは怖気づいたのか、「今日は勘弁してやるよ」と僕を指さして、人込みの中に消えて行った。
ふんと女の子は鼻を鳴らし、マサオくんの後ろ姿を見送ると、
「あ~、怖かったぁ」と安堵の笑みを僕に見せた。その笑顔がかわいくて、思わずどきりと胸が高鳴る。
「甘酒、もったいなかったね。もう一回、貰いに行こうか?」
人懐っこい彼女は僕の手を取り、再び甘酒を配っているおばさんのいるテントまで、人の波に逆らって歩いていく。
僕は彼女に従ったまま、手袋をしていない彼女の冷たくて小さい手を握りしめた。
「はい」
彼女が差し出してくれた甘酒を受け取る。ぺこりと頭を下げて、忘れてはいけないとポケットに突っ込んだ手袋を彼女に差し出した。
「あ」と彼女は驚いて、慌ててポケットに入った手袋を確認した。
「いつの間に。片っぽ、落っことちゃってたみたい。拾ってくれたんだ。ありがとう」
にこりと笑う彼女を見るのが恥ずかしくて、僕は俯いた。
こちらこそ、助けてくれてありがとう。そう言いたかったけれど、声は喉の奥で小さく唸っただけで、白い息が出ただけだった。
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