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「ありがとうございます」
元気な女の子の声が後ろから聞こえてきた。振り返ると、僕の後ろに並んでいた女の子が甘酒を受け取っていた。
その子が長い髪をふわりと揺らし、向うに歩き出した時、キャメル色のコートのポケットから真っ赤な手袋が落ちた。
あっと思い、誰かに踏まれたらいけないと、僕はその手袋を思わず拾った。毛糸で編まれたミトンの手袋の片割れだった。表には小さなピンクのリボンがついている、女の子らしい手袋だ。
手袋を握りしめ、彼女の後を追った。
拾ったものの、どうやって声を掛けたらいいんだろう?今更、拾ったことを後悔した。考えながら歩いていたら、前がよく見えてなかったらしい。前から人がぶつかってきた。
どんと右肩に衝撃があり、僕は思わず、持っていた甘酒を落としてしまった。
「あ~」
声が上がり、びくりと体が強張った。しまった、甘酒がぶつかった人の履いていたブーツにかかってしまった。
「うわっ、最悪。買ったばっかなのに……何すんだよ!」
変声期に入りたてのような微妙な声質は同年代位だろうか?身長は僕よりも高かった。口調に怒りが混じり、ぐっと胸倉を掴まれて、冷や汗が出た。
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