ミライ

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ぱくぱくと口を開けたまま、声は出なかった。 「何か言えよ、マジで。このブーツ高かったんだけど?どうしてくれんだよ」 ぎろりと飛び出た眼に睨まれ、僕はますます萎縮した。泳いだ視線の先にいる彼の仲間がにやりと笑って僕を見る。 「マサオくん、こいつ例の転校生だぜ?ほら、覚えてる?両親が死んじゃったとかでアルル爺の所に引き取られたって言ってたろ?全然喋らねぇから、マサオくんがからかったら、お漏らしして学校来なくなった……」 「あぁ」と僕の胸倉を掴んだままのマサオくんは、思い出したのか声を上げた。同時に僕もあの日の記憶が鮮明に蘇る。 よりによって一番会いたくない奴に会ってしまった。にたりと嫌味たっぷり笑うと胸倉を掴んでいた手で、僕をドンと突き飛ばした。 油断していた僕は、そのまま尻餅をついた。 相変わらず周りは賑わっていて、誰も僕のことなんて気にかけてくれない。立ち上がり、お爺さんを探したけれど、確認は出来なかった。 「学校来ないから死んだかと思ってたけど、生きてたんだ……ま、俺らにとっちゃどうでもいいんだけどさ」 マサオくんは隣にいる友達と笑い合う。僕は甘酒のかかったマサオくんのブーツをじっと見つめていた。あいにく、汚れを拭うようなものを持っていなかった。
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