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「クリーニング代払えよ」
マサオくんが手を出して、「出せよ、金」とそこを強調して、僕を睨みつけた。金と言われても、お賽銭代しか持ってきていないのに、どうしたらいいっていうんだ。僕は困っていた。
「何か言えよ!そういう態度がムカつくんだよ」
殴られる。そう思ってぎゅっと目を閉じた瞬間、ふわりと春の野に咲く花のような甘い香りが僕の鼻を掠めた。
いつまでたっても拳が降ってこないので、おそるおそる目を開くと、マサオくんは茫然とその場に立ち尽くしていた。
マサオくんの足元にはキャメル色のコートを着た女の子が屈んでいた。僕のダウンのポケットに入った手袋の持ち主、さっきのあの子だ。
女の子は持っていたハンカチで丁寧にブーツの汚れを取ると、立ち上がった。
「つるつるした生地のブーツだから、拭けばキレイになった。もし、匂いが気になるようだったら、その辺に積もった雪で洗ってあげる。君たち、最初から彼にぶつかろうとしてたでしょ?すれ違った時に聞こえちゃったの。そういうのって確信犯っていうのよ」
小柄な女の子はマサオくんを見上げるようにして、言い放った。
「もし、また彼を脅すようなことをしてみなさい。うちのお爺ちゃんに言いつけるからね!うちのお爺ちゃん、昔は猟師だったんだから、知らない間に鉄砲で撃ってもらっちゃうから!」
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