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ジリジリジリジリ
けたたましいアラーム音が、ベッド上のスマートフォンから部屋に響いた。ベッドの上で膨らんだ布団から、手以外真っ黒な腕を出し、音の発生源を探る。
何度か同じような場所を行き来した腕は、幾度目かの往復によってスマートフォンを見つけ手に取った。
画面をタップし音を止めた腕は、頭が置かれていない枕元にスマートフォンを置き、再び布団の中に戻っていった。
それからしばらく。
膨らんだ布団がもぞもぞと動き、南側から布団がめくれた。
「あ"ぁー……って、もうこんな時間?!」
うつ伏せの体から顔だけ前を向けた。目を半開きにし先程枕元に置いたスマートフォンを探し手に取って時間を確認した。
アラームが止まってから既に十分が経過していた。
「まじかよ、アラーム鳴らなかったのかよっ!?ぁあ、急がないと遅れちまう!!」
真っ黒いジャージを見に包んだ蒲原 凪はベッドから飛び起き、ジャージを脱ぎ始める。
脱いだジャージをそのままにし、ハンガーにかけてあったスーツを取り、ベッドに投げる。シャツ、ズボン、ネクタイの順にベッドの上から取り、素早く身につけていく。
最後に上着を着て洗面所へ行き軽く髪を整え、玄関先に置いてあったバッグを持ってマンションを出た。
「くっそ、休日明け早々遅刻とかほんとツいてねぇ。間に合うか?」
ダッシュで徒歩五分程の駅へ走る。
電車の出発時間まであと約三分。
駅につくと、のんびり歩く人々を押しのけ改札を通り、足を細かに動かしてホームへ続く階段を登る。
間に合え、間に合え、間に合え!
月曜日から遅刻とか何言われるかわかったもんじゃない。
ホームに上がると、電車は丁度ドアを開けたところだった。
あぁ。よかった、間に合った。
とは言え、ドアはいつ閉まるかわからないので、小走りで電車へ乗り込み、開いていた席に座り込んだ。
はぁ、という重い息が俺の口から出た。
これで遅刻せずに済むということと、朝から狸腹上司に睨ませずに済むという二つの安堵感からか、背中を凭れかけ、足をだらりと開かせ全身の力を抜いた。
「なんで鳴んなかったんだよ、アラーム」
電車の窓の外を見つめ、軽く頬を膨らませた。
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