恋文

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「1・2・3・4・5…OK!」 放課後の体育倉庫で、俺は、備品のチェックをしていた。 つまらない仕事してんじゃねぇと、思うかもしれないが、体育教師の卵で、教育実習中の俺には、大事な役目だ。 「誰だぁ…ネットこんな仕舞い方したやつは。」 授業で使ったバレーのネットを、いい加減な畳み方で、棚に突っ込んである。 「次に使う時のこと、考えてねぇんだからな。参るわ。」 愚痴を聞かす相手もなく、独り言の様に、ぼやきながら、隣の棚に移った時だ。いきなり背後から、威勢のいい声が、ぶつかった。 「花澤先生!これ、読んでください!」 えっ?…って、振り返った瞬間、声の主は、思い切りの力で、ぶつかってきて、俺の腕に、何かを押し付けた。 「私の気持ちだから…絶対に、読んでね!」 勢いよく回れ右をした、彼女は、俺に一言も言わさないとでも、決めていたのだろうか。脱兎の如く、走り去っていった。 ツインテールが、揺れていた…。 読まなくたって、わかってるよ。奈央の気持ちは…。 可愛い花柄の封筒を、握り締めて、俺は、どんな表情をしていたんだろうな、この時…。
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