暑い夏…

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「八つ当たりって、誰に…奈央にか?」 「違う…お父さん。」 「お父さんって…。本当に、何があったんだ?」 「…本当に八つ当たりなの…お父さん、悪気があった訳じゃない…ただ、私の友達の活躍を、教えてくれただけなの…。」 そう言って、香里奈は泣き始めた…。 香里奈が言う友達…冬木花音は、香里奈と同じ体操教室に小さい頃から通っていた女の子だ。 彼女は、大会で、香里奈といつも、順位を争うライバルであると同時に、親友だった。 彼女の活躍が、今朝の新聞に載っていた…。 香里奈の父は、花音のことを、香里奈に伝えた。ただ、それだけだったのに…。 「お父さんが悪いんじゃない…私が悪いの…。 花音のこと、私、大好きなの…。 だから…私の代わりに選ばれたのが、花音でよかった。そう思ってるんだよ。 でもね、あすこに立ってるのは、本当は、私だったのに…そう思ったら…ぐすっ…お父さんに、叫んでた。 『なんで、今更、そんな話を私に振るのよ! 私は、もう、そこには、行けないし、立てないのよ! なんでもない顔して、花音の話しないで!』 自分で自分の道を閉ざしてしまったのは、私…。 目の前にあるチャンスを逃したくなくて、無茶したのは、私…。 回り道しても、時間が掛かっても、チャンスの種を、手のひらに残しておくべきだったのに、しなかったのは、私…。 でも、あの時の私は、どうしようもないくらい、追い詰められていたの…。 夢は、この手のひらに、確かに掴んだのよ、透。 でもね…掴んだままでは、いさせてもらえなかった。手放さなきゃ、私は…。」 泣き崩れる香里奈の肩を、透は、そっと抱いた。
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