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一昨年、香里奈がどれだけの傷を、その体と心に刻み付けたのか…。
俺には、本当のところ、すべてを理解できてる訳じゃない。
だけど、あの頃の無理して笑っていた彼女の苦しそうな顔を、辛そうな顔を、思い出したら、こっちまで、泣きそうになる…。
今の彼女から、あの頃をもう想像できない。けれど、心の傷は、まだ癒えてなかったんだ。
「…香里奈。泣きたいだけ泣けよ。俺が、付き合ってやるから。」
「…ごめん…ごめんね…。」
「謝る相手が、違うよ、香里奈。謝るなら、八つ当たりしちまったお父さんにだろう。
気持ちが落ち着いたら帰ろうか、家まで、送っていってあげるから。」
「…うん。」
透は、ギュッと抱き締め直すと、耳元で、優しく言った。
「…香里奈。…過去に囚われて、前に進めない気持ち、俺には、よくわかるよ。でも、それじゃダメなんだって、わかってるよね?
俺達は、目指すものがあって、そのために、今、必死になってるんだよね。
さあ、いつもの香里奈に戻ろう。そして、目の前に迫った、強敵を倒しにいかなくちゃ。
俺は、何時だって、君の側にいるんだ、嬉しいことも悲しいことも、ちゃんと、聞いてやるから、今度から、今日みたいな、回りくどいことするなよ。」
香里奈は、透の腕の中で、小さく頷いていた。
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