120人が本棚に入れています
本棚に追加
席を立ち、帰ろうとする透に、片山が言った。
「ひとつ、私から、提案をさせてもらってもいいかな、花澤君。」
「…はい。」
「君が、就きたいと思う教員という仕事は、すぐ目の前に、可能性が数%とはいえ、あるわけだ。
それを、全部捨ててくれとは、私は、君に、強制は出来ない。
…かといって、これで、君と、さようならというのも、私的には、納得いかないしね。
そこでだ、条件を出そうじゃないか。」
「条件ですか…。」
「そう、条件。
君は、最終まで残りながら、正規採用されなかったことが、心残りなんだろう?
なら、来年も、受けなさい試験を。来年、最終まで残れたら、私は、きっぱり、君を諦めるよ。
その後、好きなだけ受け続ければいいよ、君が、納得するまでね。
だけど、そこまで残れなかった時は、君が諦めて、私のところで、働く。
…と、いうのは、どうだろうか?
どちらに転んでも、君にとって、マイナスには、ならない話だと思うんだけれど。」
「…いいんですか?」
「本当は、よくないね。こんな駆け引きするのも、約束するのも…。」
「ありがとうございます。」
「ああ、お礼はいらないよ。私の打算があってのことだからね。
そうだ!…これから、冬の長距離ランの季節だから、大会も多いし、授業のない日は、極力、ここへ来てくれるかな。手伝いに。
ここの仕事、手伝ってみて、気が変わるということもありえるしね。」
嬉しい反面、狡猾な大人は、敵に廻すべきじゃないと、痛感した。
最初のコメントを投稿しよう!