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「この辺で住み替えなら、ウチの物件もあるわよ。紹介してあげるから」
女主人はキャハハハと声を上げて金髪のウェービーな毛先を揺らして、ショッキングピンクのヒョウ柄のストールを巻き直しながら店の中へと消えて行った。
乾いた音をさせてビニールの国旗が揺れる。
どうしよう…
身体の芯からゾクゾクさせる冷たい風が心細さを煽る。
肘に掛けた通学バッグの中でスマホが鳴る。発信者はアパートを契約している[ウィルハウス]。
タイミングがいいのか、悪いのか…。カサついた指先をゆっくりとスライドさせた。
ヤケに明るい声で電話の女性は淡々と今のアパートの取り壊しと引越し先の物件の案内を伝えてきた。
深く深呼吸をしてから、夕焼けに照らされてピンクとオレンジの混ざる西の空を見つめて
「…じゃあ、今からお伺いしてもいいですか?ーーはい。今商店街にいるので。ーーわかりました。はい」
通話を終わらせた。
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