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大陸にある三つの国のうちの一つシャリアディーアの王都で新たな命が誕生した。
それを見届けた神官は慌てた様子で大聖堂の奥へと向かう。
ついさきほど生まれたのは代々王家一族の護衛を務め軍を束ねる任にある武の一族セルリア公爵家当主アドルス=セルリアの二人目の子供だ。
公爵家の者として何一つ不自由なく大切に育てられる…はずであった。
「報告いたします。さ…先程誕生したしましたセルリア家のお子様が…」
大聖堂の最奥にある執務室で机に向かい書類をめくっていた大神官長 ― 各聖堂の最高責任者である神官長をまとめる任にある ― は息せき切って部屋に飛び込んで来た神官にどうしたのかとのんびりした口調で答えた。
セルリア家が王家に次ぐ三公爵家の一つだとはいえ子供の誕生はそれほど大騒ぎをすることでないと思ったからである。
それは彼自身も三大公爵家の出だからということでもあったが。
しかしようやく息を整えた神官の言葉に顔色を変えることとなるのだ。
「パラディンの印を持っておいでです!! だ、大神官長には至急誕生の塔へ起こし頂きたく…」
「わかった」
神官の言葉を途中でさえぎり大神官長は立ち上がった。
一礼してまた走りだした神官の後を追って問題の子供のいる所へ向かう。
年のせいか走りだすことはなかったとはいえ急ぎ足であることは否めない。
長かった…と大神官長は胸の内で呟いた。
もう長いこと彼は ― 否この国の人々は英雄の誕生を待っていたのである。
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