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「大神官長様…」
その部屋に入る大神官長を子供の母親であるセルリア夫人が憂いをおびた顔で迎えた。
「この子は…ようやく三大公爵家に生まれた子ですのに…印を持って生まれてしまうなんて…」
大神官長は部屋を横切ると夫人に断りを入れてから子供の右手をとった。
「確かに。炎の印だ」
子供の右手の甲には文字のような痣が出来ている。
これを持っているのはパラディンとなるべくして生まれてきた者のみ。
生まれに関係なくパラディンの神殿に入り一生を暮らす者の証だ。
「大神官長、セルリア公爵様がお見えになりました」
「そうか、彼も子の誕生を心待ちにしていたのにな」
大神官長がそうつぶやいた時、一人の男が部屋に駆け込んで来た。
セルリア公爵である。
「我が妻子は無事か?」
大神官長があまりにも思い詰めた顔をしていたからであろう。
入って来るなりセルリア公爵は驚きの声をあげた。
どちらかに不幸があったのではと勘違いしてしまったようだ。
「いや、二人とも無事だ。ただ…子供は、印を持って生まれて来た」
セルリア公爵はその言葉に再び驚いた後、うめき声をあげた。
夫人のそばに行き、その横で眠る我が子を見て印を確認して目を閉じる。
「パラディンの印を持って生まれたか。国にとっては喜ばしい事だ。誇りに思わねばならん」
しばらくの沈黙の後、セルリア公爵はそう言い、目を開いた。
「二人とも悲しげな顔をするのはやめなさい。この子は英雄となるべくして生まれたのだ。辛い人生を送るだろうが、きっと乗り越えてくれるだろう」
その言葉に夫人は笑みを浮かべ答えた。
「ええ、きっと。何しろあなたの子ですもの。どのような事があっても大丈夫でしょう」
かたわらに眠る子供の頭をなでて笑みを深くする。
己の運命を知らずに幼き子はただ幸せそうな顔で眠っていた。
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