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「どうした、元気がないな」
「パパ…うん、でも大丈夫。ちょっと気分が悪いだけだから、きっとすぐに治るよ」
保安官はそう言って俯くアルニカを心配そうにのぞき込む。
「アルニカ、本当のことを言ってくれ。街の奴らになにか言われたな?」
アルニカはしばらく何も言わなかったが、やがてゆっくりと頷いた。
「気にすることはない。お前はお前だ、アルニカ。それに、お前は街の人々を襲うどころか助けたんじゃないか。」
と保安官は鼻を鳴らす。
「……ありがとう」
アルニカはほんの少し微笑んでみせた。
「ワシは少しパトロールをしてくる。遅くなるかもしれないから、先に寝なさい」
「うん、気をつけてね」
アルニカは父の背中を見送りながら、考えていた。
(やっぱり私、しばらくこの街を出よう)
自分がヴァンパイアであること、そして街の人々がヴァンパイアを恨んでいることはたぶんずっと変わらない。
アルニカが案じているのは、自分の身よりも自分を育ててくれた大切な父のことだった。
「私がここにいればパパがまた傷つくかもしれない」
あの日、投げつけられたがれきで血を流す父の姿をアルニカは思い出していた。
「アルニカ、どうしても行くのか?」
「うん。私やっぱりもっと強くなりたい!ヴァンパイアの力に頼らなくても大丈夫だって自信をつけたいの。この街に帰ってきたとき、みんなに認めてもらえるように!」
見送りは保安官一人だけ。
久しぶりの旅の荷物の重さとは反対に、アルニカの心は旅への期待に弾んでいた。
「気をつけろよ!アルニカ!」
「いってきます!パパ!」
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