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久しぶりに日本に戻ってきて、 仮住まいとしたホテルのレストランへ、 伸也とスタッフのルークと一緒に打ち合わせを兼ねて食事にきた。 「マリア?マリアだろ?」 ウェイターに案内されて席につこうとしていた紗羅の耳に、 そんな声が飛び込んでくる。 自分が呼ばれていると思ったわけではない。 彼女にとっては思い入れのある名前だったが、 珍しくもない名前だ。 ただその声がそれなりに高級なレストランには似つかわしくない大きな声だったから、 そして聞き覚えのある声だったから、 立ち止まってそちらに視線をやっただけ。 窓際の席に座っていた男が はじかれたように立ち上がって、 薄い色つきメガネをはずしながら近づいてくる。
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