序幕

3/6
前へ
/95ページ
次へ
長野県という、海なし県に生まれた私は、幼少の頃から憧れていた海のある街に、高校卒業と同時に住み着いた。 神奈川県は江ノ島。 観光地としても名高いその地は、私が思ったとおりの、マリンブルーに輝く海が素敵な街だった。 しかし、そこで私の人生は大きな変化をとげた。 小さな土産物屋さんに勤めていた私を、どこからききつけたのか、芸能プロダクションの人が女優としてスカウトに来た。 平均的な身長ではあるし、プロポーションも至ってふつう。 ただ、童顔な顔付きのおかげで、お客さんから 「可愛い」 と、評判にはなっていた。 そんな噂を聞き付けてきたらしい。 思ってもみなかった出来事、まさに天にも舞い上がるような気持ちになった私。 二つ返事で頷いて、その場で契約書にサインしていた。 ……それから三年、未だに主役を演じたことはない。 が、朝の連ドラやゴールデンのドラマの端役によく出演している私は、二十代半ばにしてかなりの成功者の部類に入るらしい。 うん、行き当たりばったりにここまできたけど、私けっこうすごいよね? ……すごいと言って。 そんな、そこそこ売れっ子な私の今回のお仕事は、『一ヶ月警察署長』 至って真面目な役柄が多く、清楚なイメージ、髪型だって、基本はボブカットで染めていない。 そんな理由からの選定。 身だしなみに厳しいであろう警察にはピッタリだったらしい。 ちなみに、"一ヶ月"の理由は、『一日警察署長』は色んな人がやってるけど、"一ヶ月"は聞いたことない。 つまり、宣伝効果大。 インパクトを求めての"一ヶ月"らしい。 北海道新幹線開業に向けて、色々話題作りに余念がないみたい。 ……大丈夫かしら、青森県警。 『♪~♪♪御乗車ありがとうございました。まもなく、盛岡、盛岡です。十四番線の到着、お出口右側です。この駅でこまち号切り離します。御乗車の列車は新青森行きです。お乗り間違え……』
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加