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二人でゆっくり食事をしたのはいつだった?
手を繋いだのは?
キスは?
最後に抱き合ったのは?
矢継ぎ早に繰り出される質問に、俺は何一つ答えられなかった。
擦れ違っていた。何もかも。
文哉に指摘されるまで気づかないほどに。
上手くいっていると思い込んでいたのは、俺だけで。
文哉はいつも待っていてくれた。
穏やかに微笑んで、仕事じゃ仕方ないよね、って許してくれていた。
それが二人の『普通』だったから。
そんな普通じゃない『普通』に慣れきっていた馬鹿な俺。
「もう待つのは疲れた。」
そう言って席を立ち出て行った。
一度も眼を合わさずに。
残された俺の目の前にあるのは、口もつけられてない冷めきったコーヒーと、俺の部屋の鍵。
為す術もない俺は茫然とそれを眺めた。
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