第1章

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季節毎の行事には頓着しない二人だったけど、それでもお互いの誕生日だけは毎年ささやかに祝ってた。 思い返せば、去年の俺の誕生日は平日で、急に入った夕方からの打ち合わせの為に部屋に帰り着いたのは日付も変わろうかという時間だった。 ソファーで丸くなって寝てしまっている文哉。 テーブルの上の手付かずのワインと小さなケーキ。 そこには、数字の形のキャンドルと、Happybirthdayのプレート。 そして綺麗にラッピングされた包み。 それらを見て、やっと自分の誕生日を思い出す。 大きなプロジェクトのチームリーダーを任された俺は、寝食を忘れる位に仕事に忙殺されていた。 帰るのはいつも終電ギリギリで、会社に泊まり込む事も頻繁で。 他部署の文哉は日に日に痩せていく俺を見かねて、時々部屋に来ては食事を用意してくれていた。 期限の迫るプロジェクトで心身共に余裕のない俺は、文哉に感謝の言葉も、ましてや、優しく接する事も出来ないままだった。 それでも、文句の1つも言わず、甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてくれる文哉を、俺は体のいい家政夫代わりにしていたのかもしれない。 .
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