第1章

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だから、去年のその日、待ちくたびれてソファーで寝ている文哉を見ても、――寝るなら帰ればいいのに――と無情な事を思っていた。 それでも文哉にブランケットを掛け、ラッピングされた包みを開ければじんわりと嬉しかったのを思い出す。 俺の好きなブランドのキーケースの中には一個の鍵。 文哉の部屋の鍵。 思わずその寝顔にキスをしたっけ。 でも。 結局、その鍵を使ったのは一度も無くて。 文哉は自分の誕生日にそれを使って部屋に来て欲しいと言っていたけど。 その前日から疲労と風邪で寝込んでしまって行けなかった。 少しのすれ違いが何度も続くと元の位置に戻すのは簡単な事ではなく、ますます亀裂は深まるばかりだった。 もっとも、そう感じていたのは文哉だけで俺は危機に気付かないまま、今日を迎えてしまっていた。 .
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