第1章

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俺は今日、クリスマスが誕生日だ。 文哉は元旦が誕生日で、これ以上おめでたいカップルはいないね、なんて二人で笑い合った日が遠い過去のようだ。 日本中が浮かれるこの日にこんな苦い気持ちになるなんて。 ピカピカ光るイルミネーションを見ながら、今日ほど両親を恨んだ事はない。 感情の起伏の激しい俺が唯一、心穏やかにいられる場所が文哉の隣だった。仕事や人間関係の煩わしさで荒ぶる心は文哉の横にいるだけで不思議と凪いだ。 手を伸ばせば触れる距離にいながら、俺は自分の事ばかりでちっとも文哉の方を向いていなかった。 ああ、文哉。 俺はやっと気付いたよ。 神様はきっとわざわざこの日を選んだんだ。 俺が自分の愚かさに気付くように。 そしてここから新たに始められるように。 半ば駆け足だった足も見れば普通の歩きの速さになって、下を向いてた心も視線が前を向いて来た。 愛してるよ、文哉。 文哉を省みなかった俺を許してもらえるまで土下座でもなんでもするから。 どうか、今、手の中にある物を受け取って欲しい。 文哉と俺の二人の部屋の鍵を。 <完> .
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