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じっと前を見つめる二人の視界にはこの世界の豊かな自然を見せつけるように様々な草木が生い茂っている。その中の一本の木が突然動いた。
それは別に風に吹かれて枝葉が揺れる類ではなく、ミシミシと幹のしなる音を立ててその木は土の上を歩いている。リゼルツリーと言われているこの魔物は主に森に生息し、樹木に擬態して人を襲う。
一体が動いた事を境目に辺りに生えていた、もとい生えていたと思っていた木々が次々と動き出してその正体を露にした。目の前で蠢く樹木の群れ、それを見たシールはニヤリと笑みを浮かべて英士の肩を小さく叩いた。
「よし、今だ兄ちゃん、やってくれ」
「え……?」
突然のシールの言葉に英士は気の抜けた返事をする。
「何やってんだよ、こんだけ化け物共が集まってんだぜ、一網打尽のチャンスじゃねえか、ほら、魔法でガーっとやってくれよ、勇者パーティの一員何だからこれくれぇわけないだろ?」
シールの言葉と思考、そして今までの行動と現在自分が置かれたこ状況を完全に理解した英士は全身の毛穴から大量の冷や汗を吹き出し、表情筋を限界まで引き吊らしながら、蚊の鳴くような声で言葉を発した。
「僕は、魔法を使えないんだ…………」
「………………は?」
「だから……魔法を使えないんだよ、僕……魔力量ゼロ、魔盲、初級魔法の"し"の字も魔法が使えないんだ……」
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