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「そんな…………」
小さな頂が白くなるまで乾いた石があちこちで見える浅い河を前にしてシールは一瞬自分の命を諦めかけた。大きく息を吸い込み疲労とアドレナリンで震える足に力を込め立ち上がる。そして日光を浴びて銀色に輝く剣を低く構えた。
足場の悪い河原は逃げるのに適さない。ならば残された道は戦って退路を作るだけだ。別に水辺に行こうと言った英士を責めるような事はしない。元を返せば今の状況は自分の軽率な行動が招いた結果で責任は自分にある。その事をシールは充分に理解していた。
「はぁ、はぁ……兄ちゃん…………オレがあいつらの気を引くからその間に何とかして逃げてくれ、元はといえばオレのせいだしな……言っとくけど別に気にしなくていいぜ、オレも死ぬつもりなんか全然ねぇからな、ほら早く行けよ」
「ぜぇーっぜぇーっ!!ゲホッゴフッ!!はぁーはぁー!……うぇ……ゴホッ……ごめん、はぁはぁ……何かい、ケホッ、言った?……」
見え隠れする死の恐怖を抑えてシールがいい放った声は、河原で仰向けの大の字になって激しく咳の混じった息をする英士の耳に全く届いていなかった。
「何やってるんだよ!!早く逃げろよ!もうすぐであいつらがやってくるぞ!!」
「そう、言われても……はぁはぁ、もう無理、しばらくは動けない……」
「そこは何とかしてくれよ!!根性見せろ!!走っただけで死ぬ訳じゃねぇだろ!!!」
「それは大きな間違いで……ケフッ、心臓に負担が掛かりすぎると心停止を起こすことだってあるんだ」
「しんてい……?いやとにかく早く逃げてくれよ!もうあいつらが来る、ってきちまったじゃねぇか!!」
とうとうリゼルツリーの群れが森を抜けて次々と姿を現した。リゼルツリーは獲物を逃がさないように大きく広がるように展開し、二人の視界の端から端からまで広がると低い呻くような叫び声を一斉に上げた。
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