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大地を震わす程の雄叫びが辺りに轟いた。ビリビリと二人の肌に殺気と混ぜた振動が伝わってくる。シールは力を失ったかのようにその場にへたりと座り込んだ。
「……イビルツリー……ウソだろ、こんなの倒せるわけねぇよ…………」
俯いて呟くその声は気力という物の全てを抜かれた様に乾いていた。イビルツリー、十階建てのビルに相当する体躯を持つ樹の魔物で、その力は単体で街一つを滅ぼす程と言われる。ギルドの示す討伐難易度でもかなりの上位に入る魔物で、討伐時には王国の兵士二個大隊が出撃するほどの強さを誇る。
そんな魔物の前で英士は息を整え終えると、リュックから液体の入った拳程の大きさのビンを取り出すと、えいやっ、とイビルツリーに投げつけた。
投げられたビンは重力に引かれて弧を描きながらイビルツリーの幹のど真ん中に命中して砕け散り、中の液体をイビルツリーに塗りたくった。
ビンに入っていたどろっとした粘土の高い液体はじわじわと木の皮の流れに沿って下へ広がって行く。英士は更に続けて同じビンを2つ投げ、上部の太めの枝に両方とも命中させた。
それをイビルツリーは攻撃と見なし、怒りの咆哮を上げて英士に照準を合わせた。
「よし命中、草野球やってて良かったよ、所でシール君、さっきの魔法出来たらもう一回やって欲しいんだけど」
「何でだよ、あんなのにオレの魔法が効くわけねぇだろ…………もう無理だ……」
「まぁそう言わないでやってくれない?今なら効くと思うよ」
「…………分かった」
絶望に取り憑かれていたシールは隣にいるこの状況で全く動揺していない青年の目の奥に、なぜか希望がチラリと見えた気がした。
立ち上がり、術式を組み立てるとシールはヒュッと剣を薙いだ。切っ先から燃え盛る斬撃が再び産み出され、真っ直ぐイビルツリーに飛んでいく。
しかし斬撃はイビルツリーの幹に当たると、皮の表面を少し切り着けてその周りをほんの少し焦がすと消えてしまった。
そして生まれた小さな火の粉がふわりと舞い、幹に付着した液体に触れた瞬間、イビルツリーは業火に飲まれた。
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