理科の時間

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再び大地が震える。しかしそれは獲物の足を竦ませる猛々しい咆哮ではなく、命の危機に晒された悲鳴であった。 「逃げるよ、こっち」 英士は火だるまになったイビルツリーを見て固まっているシールの手を掴んで、河に沿うように走った。その直後イビルツリーは再び叫ぶと、その巨体を必死に動かして地響きを立てながら河に向かって一直線に走り出した。 「ヤバいぞ兄ちゃん!あいつ水で火を消すつもりだ!」 逃げる足を止めて、シールは戦おうと剣を構えるが、それを静かに英士は制した。 「大丈夫だよ」 イビルツリーはその巨体に似合わない俊敏さで直ぐに河へたどり着くと、その中に身を投げ、体を包む火を消そうと何度も何度も転がった。細々しくなったとはいえ元は大きな河、浅くても川幅は広く、水深も深い所ではまだ大人の腰近くまではあるため、いくら巨大な体でも表面を撫でる火を消すだけなら充分な条件と言える。ただしそれはその火がただの火ならばでの話である。 この世界は異世界だ。別に実は遠い過去か未来の地球とかそういうのではなく、全く別世界のれっきとした異世界だ。そしてファンタジー物の創作物ほぼ全般に共通している点の豊かで様々な資源があるという胸が踊る要素をこの世界もしっかりと含んでいる。 絶対に壊れる事のない金属も、飲めば全ての病と傷を癒す万能薬も、見る者に無尽蔵の力を与える光り輝く鉱石もこの世界には存在する。 そして勿論、石油や石炭、ガス等の化石燃料も硫黄も硝石も硫酸もアルミニウムもマグネシウムもナトリウムもカリウムもアンモニアも容赦なく存在する。豊かで様々な資源なのだから当然の事である。
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