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河の中を踊る様に暴れ、水にどっぷりと浸かって水面から上がったリゼルツリーの体表はまだ火に覆われていた。それどころか暴れる程に、その巨体は火に包まれていく。
英士は、以前立ち寄った村で油田を見つけて、そこで得た石油を分留(蒸留)してガソリンとベンゼンを精製し、この世界にやって来た時に持っていた手荷物の中にあった緩衝材とそれらを混ぜ合わせてナパーム液を作り出した。
一口にナパームと言っても様々な種類があり、英士が作った物はナパームBと言われる物で、主にベトナム戦争中、アメリカが使用していた。このナパームBは粘性の低さから広範囲に拡散し、現在でも使用されているM2ナパームの40倍以上の時間、燃え続け、その凶悪な性質から現在では公式に廃棄されている。
当然そんな物が水に浸けた程度で治まる訳がなく、それどころか石に付着したり水面に浮いたナパーム液をまた体の別の場所に着け、被害を拡大させていった。
みるみる内にリゼルツリーの体は業火に飲み込まれ、全身が黒く炭化した頃にはぴくりとも動かなくなっていた。
ブスブスと焼かれた体表が河の水で冷やされて音を立てる。たった一体で街を滅ぼす強大な魔物が、手も足も出せずに倒された。その過程は拍子抜けするほど単純で、しかしそれを受け入れる事が出来ない。
シールの頭に矛盾にも似た答が見つからないもやもやとした感覚が広がるが、目の前の青年を見て、単にそれは自分が現実を受け入れようとしていないだけだと気付き、静かに英士に対して戦慄を覚えた。
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