2925人が本棚に入れています
本棚に追加
やる気は感じられず、気だるげな雰囲気の演奏。
真面目な審査員はそこで眉を潜めるだろう。
でも彼は演奏したどの子供より魅力的で美しい表現力だった。
そんな危なっかしい彼に興味が持てた。
――独りで頑張ろうと健気に笑う太陽に重なったのかもしれない。
彼を助ける事で、太陽に会えない心の隙間を埋めようとしたのかもしれない。
「君はピアノが嫌いですか?」
入賞の小さなトロフィーを、ロビーのゴミ箱へ捨てている雷也を見つけ、そう話しかけた。
「大嫌い。惰性で弾いてやってるだけだ」
「何で?」
「授賞したいなら、とセクハラしてくる奴等が多い。おっさんもおばさんもだぜ?」
「ではウチの事務所に入りませんか? セクハラ無しとピアノを弾かないで済みますよ」
スカウトとしてはどうなのかと思うが、雷也にはこんな息苦しい世界は似合わないと思う。
「んー? まぁそうだよなぁ。じゃ、その方向でいくなら俺、したい事があるんだよね」
最初のコメントを投稿しよう!