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「うわあ。綺麗」
ピンクと赤とオレンジと、暖かい色で埋まった花束を受けとると、千秋は眼を閉じて花の香りを吸い込んだ。
「目を閉じるな。この花束は見た目重視だ」
「あはは。綺麗です。ありがとうございます、太陽さん」
花に顔を埋めながら、少女のように千秋が笑う。
椿は、千秋のエプロンにしがみついてぎゃんぎゃん泣いていた。
千秋が最後の出勤日に集まった、保護者からもすすり泣く声がする。
それだけで、千秋の子供や保護者への関わりが良かったんだ。天職だったんだろう。
子供に囲まれる千秋は、聖母マリアのようだった。
「俺、なんで千秋の子供として生れて来れなかったんだろうな」
「ふふ。太陽さんが私の子供なら、きっと私毎日幸せだわ」
そんな、照れもせずに嬉しくなるような言葉を、ぽろりと吐いてくれるからきっと、俺は千秋が好きになったんだろうな。
千秋の両親も認めた、有名大卒出の銀行員。
眼鏡のひょろひょろした奴で、俺が殴ったら吹っ飛んでいきそうな奴だけど、千秋が幸せならそれでいい。
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